Unicul Laboratory(以下「ユニカル」と表記)のプログラムを導入いただいた全国の中学校、高校の先生にインタビュー!
今回は、2022年5月〜6月にかけて、全6回にわたるオンラインワークショップを一緒に企画及び実施した、藤井先生(当時金沢市立高岡中学校教員)にお話を伺いました。
藤井宜子(ふじい・のぶこ)さん 金沢市立 森本中学校教員
石川県鳳珠郡穴水町生まれ。大阪の大学を卒業後、飲食業やアパレル業などを経験。その後地元に戻り、日本航空大学校で英語の先生や広報の仕事を務める。結婚・出産後、通信制大学で教員免許を取得後、金沢市立 高岡中学校に赴任し「総合的な学習の時間を担当。2023年4月より現職。
― Uniculにはメールでお問合せしてくださいましたが、Uniculのことはどこでお知りになったんですか?
Uniculさんもワークショップをしたことがある、福岡の中間東中学校の高倉先生のFacebook投稿を見たことがきっかけです。
高倉先生とは、同じ教育系のオンライン講座に参加したことがあり、すでに知り合いでした。先生の投稿やUniculさんのHPを拝見して、ワークショップを丸ごと提供してもらうのではなく、先生とUniculさんがお互いの想いを擦り合わせて一緒にワークショップを作ったという点が印象に残っていました。
高倉先生についてはこちらのインタビュー記事をご覧ください
― 教育系のオンライン講座!意欲的に学んでいたんですね。
意欲的というよりは必要に迫られて、でした。通信制教育で教員免許は取りましたが、いざ公立中学校で働き始めると、わからないことだらけで…。特に「総合的な学習」については、採用1年目から学年全体の授業提案を任されたのですが、決まったカリキュラムも教科書もなく、途方に暮れたことをよくおぼえています。とりあえず前年度に実施された授業の資料を見て、それを踏襲したものをやってみました。でも、3ヶ月経ったときに急に入院することになり、そのまま産育休に入ってしまったのでほぼ何もできていないんです。
でも、このままじゃ復帰したときにもっと困るなと感じたので、育休の間にやれるだけのことはやってみました。地方在住で子供もいるので、オンライン講座はとてもありがたかったです。オランダでイエナプラン教育をされている方のお話を聞いたり、そのうち、ある教員向けオンライン講座サービスのスタッフになったり..教育関係の知り合いも増えて、困っているのは自分だけじゃないんだと感じられましたし、学校や国が違えば教育の内容や考え方も全く異なることがあると知って、教育って本当に面白い!と思うようになりました。
― 復帰されてからはどんなことをされたんでしょうか?
育休中に知ったいろんな事例を自分でもやってみたい!とわくわくした気持ちで現場に戻りました。「総合的な学習の時間」に関しては、紙の上や学校の中だけで完結するよりも、リアルな人との出会いや体験があるものを、と思っていました。でもいざやろうとすると、他の地域での事例は知っていても、地元の課題についての知識や、講師になってくれる人との繫がりはないことに気づいたんです。そこで週末は、地域の面白い話題や面白い人を探しに、SDGsカフェに通い詰めたり、金沢100人カイギのスタッフを始めたりしてました。
― 行動力がすごいですね!なぜそんなにも積極的に動けたんですか?
育休中、自分自身がオンライン講座をフル活用する中で「ICTがどんどん進化する中、リアルな学校の教員や、地方の公立学校そのものの存在意義はって何だろう?」と考えるようになったんです。そんなとき、長年学校で起業家教育を行ってこられた大西正泰先生に「これからの時代、教師は子どもと地域のおもしろい人をつなぐハブになるのがいいんじゃないかな」と言われたことが印象に残っていて、その言葉が原動力の1つかもしれません。それに、なんでも深く突き詰めたら面白い世界を見れるし、エネルギーを注げば注ぐほど面白くなって返ってくると思っているからですかね。
でもなかなか授業につながるところまでは行かず、どうしようと思っていた年度末に、「将来加賀友禅の仕事をしたい」と話してくれた生徒がいました。地元の友禅作家さんを探して生徒と会いに行って一緒に体験したり、染色の方にお話を聞いたりしたんです。そうしたら、その生徒は加賀友禅の道に進みたい気持ちがさらに高まって、高校も友禅を学べるところへ進学していきました。その生徒に頼まれてしたことではなかったんですけど、きっとそうした方がいいだろうなと思って一歩踏み出してみた結果、生徒の役に立てましたし、私にとっても自信になりました。
復帰2年目には、地域の人との繋がりを生かした授業にチャレンジできました。学校外の方々との連携という、前例のない取り組みはそれなりに大変でしたが、やればやるほど面白くなったので、苦ではありませんでした。。そして、どんなに頑張っても授業は一人ではできません。前例のない大変さを一緒に乗り越えてくださった先生方には、心から感謝しています。
詳しくはこちら
― 地域と繋がった授業を実現し、その後Uniculとコラボしようと思われたのはどうしてでしょうか?
地域と連携した授業を始めた年は1年生を担当し、総合で扱うのは主にSDGsなどの社会課題でした。SDGsは新しい分野であり、内容の自由度も高いのですが、翌年持ち上がった2年生はキャリア学習を本格的に始めます。こちらは学校における「前例」や一般的な「常識」が多い分野です。それまでは「車に興味があるあなたは、整備士の専門学校や機械工学が学べる大学に進学するのが良いでしょう」というように、興味関心や特性に応じた職業を呈示し、そこに至るまでの情報提供を行うのが学校の主な役割でした。
しかし、変化の激しいこれからの時代においては、子供の頃に憧れた職業も、大人が教えてくれた未来予想図も、成人する頃には状況が大きく変わっていることの方が多いと思います。これからの子どもたちは、職業という枠にとらわれず自分のやりたいことや軸となるものを追求し、実現したい未来を自ら描き、また何度でも描きなおしていくことになるでしょう。自分と向き合い、未来を描き、実現に向けた歩みを進めながら修正する、こうしたサイクルがうまくまわるように支援したり、まわせる力をつけるのが、これからのキャリア学習ではないかと考えています。
ただし、これは「これからのキャリア学習って?」という問いに対する私の答えであり、決して正解だとは思っていません。生き方の数だけ答えがありながら、生徒にとっての重要度も、保護者の関心も高い「キャリア」についての授業を、担当者の一存で進めるのはとても不安でした。
そんなとき、以前面白そうだと思っていたUniculさんのホームページを改めて開きました。「若い世代に、未来を描き、切り拓くチカラを。」というミッションに共感したのは言うまでもありませんが、ワークショップの内容が、まちを歩いたり手を動かしたり、今までにない刺激を受けながら、言葉だけではなく様々な手段で自分を表現できるよう工夫されていることに魅力を感じました。楽しんで取り組む生徒の姿がイメージできたことが決め手となり、コンタクトをとらせていただきました。
― 今回のワークショップは、企画から一緒につくっていきましたが、生徒さんたちの反応はどうでしたでしょうか?
最初のワークショップは、それまで私が授業を作りづらい気がしていた「自分と向き合うこと」にフォーカスしたものでした。「自分と向き合うこと」って、できる子はできるしできない子はできないので、差が出やすく、やるのが難しいと思っていました。自己肯定感の低い子も多いので、自分と向き合わせたら辛くなっちゃうかもしれないと思ったのも避けていた理由なんです。
でもUniculさんのワークショップは、大人向けでも通用する内容でありながら、中学生に難しいと感じさせない工夫がたくさん盛り込まれていて、みんな楽しそうに取り組んでいました。「短所も他の人から見たら長所だった。価値観が違うからこそ世の中面白いのかも」という感想があったり、あまり人とかかわろうとしなかった生徒が「人と話すことも大切だと思った」と書いていたりするなど、自分と向き合うときには仲間が必要ということも実感してもらえました。
同級生とも先生や家族などの大人とも違う大学生の方々がファシリテーターとして登場してくださったのも、素直に自分と向き合えた要因だと思います。スポーツのエピソードや、高校や大学選びの経験談など生徒にとって身近な話題が多く、関心を持って聞いていました。社会人の方々には仕事以外でやりたいことを実現されている姿を見せていただき、「キャリア=職業」ではない、ということを知る機会にもなったかと思います。どの方もその人にしか語れないことを話してくださり、回を重ねるごとに「次はどんな人かな?」と楽しみにしていた生徒もいれば、同じファシリテーターの方の再登場に喜ぶ生徒もいました。
実施したワークショップの内容はこちら
- 【開催報告】金沢市立高岡中学校にて、「自分クッキング」「冒険の宇宙」をオンラインで開催しました
- 【開催報告】金沢市立高岡中学校にて、第3,4回ワークショップ「キャリアタイムマシン」をオンラインで開催しました
- 【開催報告】金沢市立高岡中学校にて、第5,6回ワークショップ「人生路線図」をオンラインで開催しました
― 藤井先生自身に変化はありましたか?
それまでは基本的に一人で授業内容を考えていたので、一緒に作ってくださる方がいるという安心感が大きかったです!また、何度も打ち合わせをし言葉を交わす中で、自分の考えがクリアになったり、気づきが生まれることが多かったです。生徒が自分と向き合う際に、仲間やファシリテーターの方の力を借りたように、教員が授業を作るときにも、仲間の存在は大切だと感じました。少し肩の力が抜けた分、生徒と一緒に授業を楽しむ余裕も生まれました。
― 最後に、「総合的な学習の時間」の担当になり困っている全国の先生方にメッセージがありましたらお願いします。
「総合的な学習の時間」は、学年や学校全体にかかわる内容で、かなりエネルギーが必要です。
どうせエネルギーを使うなら、これでいいのかな?とモヤモヤしているよりは、一歩踏み出してはいかがでしょうか。一人で全部やらなくてもいいんです。というよりも、できません。地域の魅力的な方々とのつながり、Uniculさんのように伴走してくださる方との出会い、何より同じ職員室にいる先生方とのコミュニケーションを大切に、少しずつでも自分が納得できる形を追い求めましょう。その方がきっと、楽しいです。
一歩踏み出す勇気、誰かとともに取り組むこと、楽しむ心。これらを生徒に体験してもらいたいのであれば、大人も同じことをやってみるのが一番だと思います。